Photo : Soma Doi (STUH)
Edit & Text : Shin Kawase
PUMA MIJ (MADE IN JAPAN)
Special Feature 2022 SPRING
“SLIPSTREAM LO VTG MIJ SNAKE”
昨年1月、待望の復活を遂げたプーマが誇る最高峰モデル“MIJ”(MADE IN JAPAN)。高額であるにも関わらず、リリースされると瞬く間にソールドアウトし、長らく待ちわびたプーマファンでさえ、買えない人が続出。日本のファンのみならず、世界のプーマファンからも注目を集めた。あれから一年。匠の技を駆使したスリップストリームが登場。編集部は再び生産工場担当者を取材した。(インタビュー取材:2022年2月)
–––2021年1月に復活したスウェード ヴィンテージMIJ シルバーは大反響したね
僕らもプーマジャパンさんからお話を聞いて本当にびっくりしました。しばらくの間MIJ企画をお休みさせていただいておりまして、久しぶりの取り組みだったんですけど、本当に予想以上の反響と評価をいただいて大変うれしく思っています。せっかくご購入いただいたユーザー様をがっかりさせないように、今後のMIJの取り組みでも、さらに高い評価をいただけるモノづくりを行っていきたいと思います。
PUMA SUEDE VTG MIJ SILVER (January 2021)
–––あらためてMIJに対する期待値の高さを実感したと思うのですが
そうですね。ユーチューブやSNSなどを拝見することで、よりダイレクトに、タイムリーにユーザー様の反響を感じることができました。うちの職人さん達もそれらを直接見ることでモチベーションを上げて、さらにいいモノづくりができるなと感じています。そういった意味では昨年のMIJ は、うちの工場としても気持ちを新たにできた大きなターニングポイントになったと感じております。
–––今回はプーママニアに人気のスリップストリームですね
はい。次はスリップストリームと聞いた時、デザインがかなり複雑なので、工場内も今回はいつも以上に気合をいれて臨まないといけないという雰囲気になっていました。スウェードに関しては、定番的に製作させていただいているので慣れている部分があるんですけど、スリップストリームは経験値が豊富でないため大変でしたね。
SLIPSTREAM SNAKE (1988)
スリップストリームは、1987年に誕生したバスケットボールシューズ。パフォーマンス性の高さから、多くのバスケットボールプレーヤーに愛された名作。当時最新鋭のクッショニングテクノロジーであった“ANTI SHOCK SYSTEM”(アンチ ショック システム)を搭載。安定性、クッション性に優れた画期的なシューズであった。この時期から、バスケットボールシューズのタウンユース化が進み、翌年の1988年にはカラーバリエーションとして“THE BEAST”(ザ・ビースト)や“SLIPSTREAM SNAKE”(スリップストリーム スネーク)など、今なお語り継がれる歴史的傑作が誕生した。また、ヒップホップ、ダンスクルーにも支持され、ストリートでも人気を博し、オリジナルを探す根強いファンが未だに存在するプーマを代表する一足となっている。
About
SLIPSTREAM LO VTG MIJ SNAKE
–––それでは今回の新作「スリップストリーム ロウ ヴィンテージ MIJ スネーク」の特徴を教えてください
アッパーの素材にスネーク柄の型押しの牛革を使用しておりまして、レザーの専門的な話ですけど、通常の型押しですと単色しか表現できないんですが、この型押しが「逆型」と呼ばれる特殊な型になっているが特徴です。逆型の特殊な型をレザーに押すことにより、多色の色合いの表現が可能になるんです。もっと具体的に言うと、通常は鱗の部分が飛び出て、鱗と鱗の間の溝の部分が凹むんですけど、逆型は鱗部分を凹ませて、鱗と鱗の間の溝の部分を凸の状態にしてあります。
–––逆型とは技術的に難しいことなのでしょうか?
そうですね。これを出来るのはタンナーさん(皮革製造業者)の技術力の高さかなと感じております。逆型の特殊な型をレザーに押すことにより、さらに凸になっている溝の部分のみの塗膜を削り落とすことで、塗膜の持った鱗部分と鱗を削った鱗と鱗の間の溝の部分、2色の色合いが表現できているので。
–––アッパーのレザーも工場の地元である兵庫県・姫路市で調達した素材でしょうか?
そうです。我々の工場から車で15分位の所にレザーの一大産地があるんですけど、そこに直接行って打ち合わせして調達してきました。
–––逆型押しをする前提で最適なレザーを選んで
はい。どうしても通常の型押しだと単色でありきたりのレザーになってしまうので、今回は特殊なレザーを採用するという前程でタンナーさんに色々と相談しながら進めていきました。
–––今回のレザーは姫路だからこそ選べたと言えますね
それはあると思います。我々の工場がレザーの一大産地の姫路にあるという距離感も、革のコストも含め、レザーの情報量とか、姫路ならではの取り組みがあったからこそ、今回のスリップストリームも作れたと実感しております。
–––レザーの感じが上品で高級感がありますね。これはMIJというよりMIH(MADE IN HIMEJI)ですね
そうですね。MIJですけど、MI姫路、MIH企画と言っていいただいてもいいと思います。僕らは常に「格好良さ」っていうことにこだわっていますので、素材の格好良さはもちろん、成型のしやすさも追及して選ばなくてはなりません。
–––ネイビーとワインレッドがありますが、この色を出すのも難しいことなんでしょうか?
革の工場に行っていただくと分かると思うんですけど、良くも悪くも機械化されてなくて、ほとんど手作業で色の調色をしているんです。なので革1枚1枚で色が変わってきますし、その時の天候とか、染める季節によっても微妙に色が変わってくるので希望する色が一発で上がってこないことも多々ある。いい色を出すには、長年の付き合いの中でタンナーさんと近い距離感がありながら、お互いの経験値を持ち寄って試行錯誤して作っていかないと、なかなか簡単にできるものではないんです。
–––ラスト(足型)はスウェードと違うラストですよね
スウェードとは異なるスリップストリーム専用のラストになります。今回のラストはグローバルモデルで使っているラストをドイツ(プーマ本社)から送ってもらって使用しているんですけど、逆に同じラストを使用しながら、海外生産のスリップストリームとは一味違うMIJならではということを表現しないといけないので大変でした。完成したスリップストリームが一目見てMIJと分かるように、素材以外にもすべてに至るまでMIJが表現できるように常に考えて生産しております。海外生産との違いは、レザーの質感と履き心地、見た目のシュッとしたシルエットの凛々しさみたいなところだと思っております。
–––生産する上で一番大変(難しい)だった所を具体的に教えてください
やはりMIJでありながら、ローカットのオリジナルパターンのシルエットをきっちり出すことですね。スリップストリームというとハイカットのイメージが強いと思うので。ハイカットの方が、単純に背が高い分、縫製や成型においても、少し大変なんですけど、ぱっと見るだけで背が高くて象徴的で分かりやすい。でもローカットだと表現できる部分が少ないので、逆に難しいんです。そういう意味でいくとローカットながら、スリップストリームのオリジナルに忠実にMIJらしいシルエットを出すのは、素材もそうですし、補強の材料、裏材とか、すべてが大事になってくるので、そこが難しく大変でした。あと、つま先部分とサイド部分とに使っている逆型スネーク型押しレザーを1枚の革の中で、型押しの型が独特なもので、つま先には革のこの部分を裁断してください、サイドの部分はここの場所を裁断してくださいっていうのを、裁断の職人に指示をしておりまして、この部分はすごく気を遣いました。
–––使うパーツによって、使うレザーの場所が違うのですね
ええ、そうなんです。ランダムに裁断しちゃうと、左右がちぐはぐな靴になってしまいますので、一足の靴の完成度を高め、より格好良くなるように裁断しないといけない。それはこと細かく指示を出して裁断しています。
–––完成したスリップストリームの履き心地はどうでしょうか
スリップストリームはバスケットボールシューズなので、普通に作っちゃうとボリューミーなシルエットになってしまうんです。MIJの特徴であるシュッとしたシルエットに収めながらも、踵周りやシュータンに通常のものより厚いクッション材を入れてあるので、形は違えどスウェードと同様にMIJ独特のぴったり足にフィットする感じの履き心地が味わえる一足になっていると思います。
–––レザーも丈夫そうで経年変化も楽しめそうですね
経年変化がしやすい革といえば、ヌメ革って呼ばれるものがありますが、今回のレザーは、ヌメ革じゃなくて、靴の生産により多く使われているステアのクロムレザーになります。スニーカーには一番向いている革で、耐久性という意味でも、プーママニアの方にも納得していただける革だと思います。経年変化という意味では、スネークの逆押しの部分は、今は鱗の溝の部分しか削ってないので、鱗の部分と溝の部分がきれいに分かれているんですけど、履き込んでいくうちに、鱗部分もちょっとずつ削れて、地の部分も見えてきて、よりリアルなレザーっぽくなってくる。ここは長く履き込めば履きこむ程楽しめるポイントだと思います。
–––「スリップストリーム ロウ ヴィンテージ MIJ スネーク」をどんな方に履いてほしいですか?
作り手側から自画自賛で恐縮なんですけど、スウェードに関しては絶対的な自信があって得意なんです。ですが、スリップストリームは経験値が豊富でないもので、プーママニアの方、スニーカーフリークの方々に履いていただいて、いろんな意見を直接聞いてみたいなって思います。
–––SHOES MASTER読者へ一言お願いします
今またオミクロン株の拡大で、外出もしにくい状況が続いていることでスニーカーを購入したり、履く機会が減ってると思うんですけど、私どもの工場は感染防止対策を行いながら、工場をフル稼働して生産を続けております。これから春に向けてもMIJ企画がリリースされる予定ですのでよろしくお願いします。
PUMA MIJ 2022 SPRING
SLIPSTREAM LO VTG MIJ SNAKE
SLIPSTREAM LO VTG MIJ SNAKE
Parisian Night / Puma White
¥27,500(2月26日発売)
SLIPSTREAM LO VTG MIJ SNAKE
Cordovan / Puma White
¥27,500(2月26日発売)
販売店舗:
・ABC-MART Grand Stage
・atmos
・BILLY’S ENT
・BOSTON CLUB
・KICKS LAB.
・Lui’s
・Magforlia
・mita sneakers
・Sneakersnstuff
・UNDEFEATED
・UPTOWN
・プーマストア(原宿キャットストリート、大阪)
・プーマ公式オンラインストア
INFORMATION
プーマ お客様サービス
0120-125-150
www.puma.com
編集後記
昨年、待望の復活を遂げた“MIJ”。復活の吉報を聞いた編集部は、10年前に訪れた工場を再び取材したかったが、昨年はコロナウイルスの影響で県をまたぐことも憚れる状況であったため、工場の開発責任者をリモートでインタビュー取材した。そして今回、スリップストリームに挑戦すると聞き、取材日程を調整していたが、オミクロン株の急拡大にまたしても断念。今回も工場取材が頓挫してしまった。またリモートインタビューになってしまったのだが、工場スタッフが生産の過程を撮影してくれた。スタッフに感謝するとともに、次は必ず現場で取材したいと強く思った。
Photo by Junya Yamamoto