Photo : Osamu Matsuo
Text & Edit : Issey Enomoto
JAPANESE
BRANDS #01
ASICS
Part 1_ASICS Institute of Sport Science
アトモス小島奉文と、アシックススポーツ工学研究所へ。
アシックスが世界のスニーカーシーンを席巻している。なにがそこまで人々を魅了するのか。『アトモス』の小島奉文が同社の中枢部を訪れ、その魅力の源泉を探った。
ASICS Institute of Sport Science
JAPANESE
BRANDS #01
ASICS
小島奉文 / アトモス クリエイティブディレクター&メンズシニアディレクター
1981年生まれ。2000年、テクストトレーディング(現フットロッカーアトモスジャパン)入社。バイヤーやディレクターなどを経て現職。『アトモス』の運営統括やバイイングを手掛ける。
アシックスの研究開発の基幹を担う
「スポーツ工学研究所」とは。
『アトモス』の小島奉文と訪れたのは、兵庫県神戸市西区にある「アシックススポーツ工学研究所」。総合スポーツブランドであるアシックスの研究開発の根幹を担う部門だ。「スポーツで培った知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」というアシックスのビジョンを具現化することを目的に掲げ、「人間特性」「材料」「構造」「分析・評価試験」「生産技術」の5つの分野に関する研究を行っている。
アシックスの研究開発機関であるアシックススポーツ工学研究所の研究室。ここでは人間の身体や動きの分析をもとに、材料や構造の研究を行っている。
素材の開発も研究所内で行う。ミッドソールやアウトソールの素材をオリジナル配合で作成し、スピーディに検証できることもこの研究所の強みだ。
そんなアシックススポーツ工学研究所に、なぜ今回、スニーカーショップ『アトモス』の小島と訪れたのか。その狙いは、アシックスのスニーカーの魅力の真髄を探ること。アシックスはアスリート向けのパフォーマンスシューズもさることながら、デイリーユースのスニーカーの履き心地の良さに定評があり、小島自身も日頃から好んで履いている。また、小島がディレクターを務める『アトモス』にとって、アシックスは重要な取引先のひとつであり、これまで数々のコラボレーションも展開してきた実績もある。
アシックスのスニーカーを熟知する小島が、その研究開発の現場を見て、どんなことを感じるのか。スニーカーカルチャーに精通した小島の視点を通じて、アシックスのスニーカーの真髄に迫ることができるのではないか。小島にそう打診すると、二つ返事で引き受けてくれた。
履き心地の良さの背景を垣間見る。
アシックススポーツ工学研究所で目にすることができたものは、事前の期待をはるかに超えていた。コンピュータを駆使して実験や評価を仮想的に行う「CAEルーム」では、計算機支援工学(CAE)を活用した構造設計について担当者からレクチャーを受ける。「GEL-QUANTUM」シリーズに搭載されているスキュートイドGELが、人の手によるデザインではなく、アルゴリズムに基づくコンピュータシミュレーションによって設計されているとの説明は目から鱗。また、足の三次元データを収集する「足形測定室」では実際に三次元足形計測装置で足形の測定を体感し、室温や湿度を制御して過酷な環境を再現する「人工気象室」や製品の評価試験を行う「材料試験室」では厳しい基準で製品のテストが行われている様子を目の当たりにすることができた。
コンピュータを用いて実験や評価を仮想的に行うCAEルーム。「GEL-QUANTUM」シリーズに搭載されているスキュートイドGELもここから生まれた。
日本人の足と向き合い続けてきたアシックスは、190万人分にも及ぶ膨大な足形データを保有。データは様々な軸で分析され、ラストの開発などに生かされる。
シューズの屈曲強度のテスト中の様子。走行動作を機械で模擬し、繰り返し負荷のかかる部分に亀裂や破断が起こらないかどうかの検証を行う。
アスリートの動きを解析するアシックススポーツ工学研究所のスタッフたち。ここで得られたデータは製品開発に役立てられる。
研究所内を見学する小島。こちらは室温や湿度を制御して温熱快適性評価を行う「人工気象室」。
「こうやって研究開発の現場を生で見ることができるのは貴重な機会。すべてが新鮮な体験でした。複雑な形状のGELがコンピュータのアルゴリズムに基づいて設計されていたことに驚かされたし、シューズの耐久性や屈曲性を評価する試験がこれほど厳しい基準で行われていることも初めて知りました。1足のシューズが生まれるまでに、こんなにも多くの時間と労力がかかっているとは。スポーツブランドとしてのアシックスの技術の高さとイノベーションにかける情熱をあらためて垣間見た気がします。大量の足形データを保有しているのも、長きにわたってシューズの研究開発を続けてきたアシックスならではですね」
スポーツブランドの研究開発施設というと、アスリートのパフォーマンス向上に特化したものをイメージしてしまうが、アシックススポーツ工学研究所が目指す最終的なゴールはそこではない。見据えているのは、冒頭で触れたアシックスのビジョンである「質の高いライフスタイルを創造」すること。シューズに関していえば、アシックススポーツ工学研究所が担っているのは、アスリートのためのパフォーマンスシューズの研究開発にとどまらない。
「ここで生まれた様々な機能や素材は、『アトモス』が取り扱うライフスタイル向けのスニーカーにも反映されている。今回のスポーツ工学研究所への訪問を通じて、そのことがよく理解できました。そして、だからこそアシックスのスニーカーはこんなにも履きやすいのかと納得感がありました」
※本記事は、『SHOES MASTER』Vol.41(2024年3月29日発行)の特集記事を再編集したものです。
取材協力:アシックスジャパン株式会社
INFORMATION
アシックスジャパン カスタマーサポート部
0120-068-806
www.asics.com