Photo : Kazumasa Takeuchi (STUH)
Edit & Text : Shin Kawase

15th Anniversary
The future of KEEN
~誕生から15年。
新たに動きはじめた、キーンの未来予想図~

キーンが15周年を迎えた。つま先を守るサンダルとして一大旋風を巻き起こした歴史的名品「ニューポート」をはじめ、2014年に登場したオープンエア・スニーカー「ユニーク」は、シューズマーケットのみならず、ファッション業界をも席巻。キーンはいつも新しい何かを生み出し、我々を驚かせてくれる。キーンの未来について、キーン・ジャパンのキーパーソン、高木雅樹氏を取材した。

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Masaki Takagi (KEEN JAPAN)
Interview

高木雅樹(たかぎ まさき)
大学時代に吉祥寺にあった伝説のスニーカーショップTECTECKに勤務。1995年に中央月星に入社しCONVERSE営業を担当する。その後、丸紅フットウェアに入社しSIMPLEやMERRELLを担当。2003年、PONY JAPANに入社、2004年にKEENのブランドマネージャーとして関わり、KEEN JAPAN設立時の2014年よりブランドディレクターとして活躍。KEENの創業時から現在までのすべてを知る、Mr.キーン。

–––まず、高木さんは「靴を自腹で買って履いて試して、それを仕事にフィードバックする」稀有な存在だと思っているのですが、自分で買って試した靴は、今何足ぐらいになりましたか?
おそらく、1,000足は超えてるんじゃないですかね。今、自宅で所有しているは500足位です。

–––自腹を切って買って試す理由を教えてください。
お客さんはみんな自腹で靴を買っているじゃないですか。なので、その当たり前の感覚を忘れないように買い続けています。作り手側になると、もらったり、経費で買えたりして、どんどん一般ユーザーの感覚って分からなくなると思うんです。だからお金を払った分だけの対価がその靴にあるのか確かめたい。靴のコストパフォーマンスは五感で感じないと絶対ダメだと思います。その体験を、キーンのシューズ作りに役立てられたらと思ってやっているんです。

–––キーンが15周年を迎えました。まず、改めてキーンの今を教えてください。
創業と同時に発売された“NEWPORT”(ニューポート)をはじめ、つま先を守るという機能をあらゆるシューズに備えることで2003年に誕生しスタートしました。キーン創業者でありオーナーのローリー・ファーストが開発したのですが、創業の年にいきなりニューポートを完成させたのではありません。ローリー・ファーストは今から45年前に独学で靴の修理業を始めました。その優れた技術はすぐに評判を呼んで、世界中の誰もが知っているスポーツシューズブランドのソーシング(開発&生産管理請負)をずっと手掛けていたんです。その経験が30年。今現在、世界で最もスポーツシューズの作り方を知っている男がローリー・ファーストだと思います。その彼が満を持して立ち上げたのがキーンで、人間でいうと15歳の中学生なんですけど、そのバックには30年の経験豊富な人がちゃんと付いていたという形ですね。

スポーツシューズの、適切なグリッピング力確保のためには、適切なラバーアウトソールが必須であり、そのアウトソールラバーと一体となった“TOE-PROTETION”(トゥ・プロテクション)を完成させたことからキーンが始まりました。ローリーは、キーンを多機能対応スポーツシューズとして位置付け、ハイブリッド・フットウェアブランドとしてスタートさせました。15周年を迎えた今もそのコンセプトは変わっていません。“PRODUCT IS KING”(プロダクト イズ キング)をルーツとする考え方や社会貢献活動、“KEEN EFFECT”(キーン・エフェクト)もずっと継続しています(当時はハイブリッド・ケアという名称)。これはプライベートカンパニーであることが非常に大きいので、株主の意向を気にすることなく、会社全体が一人のオーナーのもと、全員が家族みたいな形でやってきてますので、方針には一切ブレがなく、横やりも入らないような形で来ました。ローリーは、上場して会社を大きくするとか、まして売却するなどあり得ないし興味もないみたいです。むしろ、ブランドの価値を毀損したり、良くない商品を売るくらいなら売り上げも伸ばさなくていいと常々言っていますし。有名な話ですが、我が息子に「何年かかってもいいから、今までにないものを作れ」と指示して3年半かけて完成したのがユニークだったりします。キーンは、「良いプロダクトがすべてだ」というプロダクト至上主義の会社なんですよね。非常にオールドスクールなやり方なんですけど、こんな時代だからこそ、10年、20年経って、キーンがやってるようなオールドスクールのやり方が新しくなる時代が来るような気がしますし、将来性はあると思っています。あくまで結果論ですが、創業以来14年連続黒字成長を達成しています。最近は「人々の生活に貢献し、外の世界へいざなう、独創的で汎用性の高い商品を創り出すこと」のキャッチコピーのもと“BETTER TAKES ACTION”(前向きな意思と行動が、より良い“なにか”を生み出す)というスローガンを掲げています。

–––イベント活動でも面白い取り組みをしているとか。
色々な活動をしているのですが、そのひとつにアウトドアの楽しさを新しい形で伝えていくことを目的に、フジロックフェスティバルのオフィシャルスポンサーになっていて、今年も継続する予定です。音楽ファンにアウトドアシューズがいかに機能的かということを知ってもらうために、会場で来場者に向けたシューズレンタルをしました。野外音楽フェスティバルは、新しい形のアウトドア・アクティビティーだと捉えています。会場には、アウトドアに適さない靴で来る方もいて、不快な思いをしたりとか、怪我をすることもある。キーンのアウトドアシューズを1日通して履いてもらうことによって、機能的に動けるし、怪我も防げるということを体験してもらう機会になって、実際にお役に立てたんじゃないかなと思います。

–––CSR活動も積極的に行っていますよね。
<キーン・エフェクト>は、2004年の大勢の方が被害に遭われたインドネシア・スマトラ沖津波災害の時に発足したCSRプログラム(当時はハイブリッド・ケアという名称)で、2005年FWの広告予算1億円を全て寄付しました。1回だけ、「これが今シーズン最後の広告です、なぜなら残りのお金は全部寄付します。」っていう広告を打って、残った予算は寄付をしたのから始めて、13年継続して寄付活動をしていて、寄付総額は累計で16.5億円になります。その金額は、設立15年目の小さなブランドにとっては巨額のお金です。利益を得るためにとか、何かを売りたいから活動している訳ではありません。これもオーナー企業だからこそ出来ることだと思います。日本国内では九州北部豪雨や、その他さまざまな災害に対して早急なレスキュー活動を行っているオープン・ジャパンという一般社団法人をサポートするなどしています。あと、アメリカでナショナル・モニュメントの活動も行いました。ナショナル・モニュメントとは、アメリカ合衆国の文化遺産保護制度の一つで、大統領が変わる時に大統領権限で自然遺産に土地を登録できるんですよ。キーンは、景観のいい土地や自然を守るために全米をバスでツアーしながら署名活動を行って、約217万エーカー(東京ドーム約188,311個の広さ)を自然遺産新規登録に成功しました。靴を作るだけではなくて、環境や社会に貢献したり、物作りではない何かを作るっていうことも積極的にやってますね。

–––2018年の展開について教えてください。
まず、“UNEEK”(ユニーク)からお話しすると、2本のコードを組み合わせてアッパーに使うコードジャンクションデザイン(特許取得)を使ったシューズをユニークと定義しています。2018年の春夏モデルとしては、ユニーク エクソというモデルをリリースします。これはニットとニットアッパーに、ユニークのコーディングシステムを組み合わせた画期的なシューズです。秋冬も、ユニークのブーティーシステムを進化させたものを作っていて、非常に大変なのですが(笑)、毎シーズン斬新な新型モデルを出すというプランで動いています。ご期待ください。

左 : UNEEK O2 ¥11,000
中 : UNEEK EXO ¥12,500
右 : UNEEK HT ¥13,500

次に“NEWPORT”(ニューポート)は、キーンの創業モデルであり、スポーツシューズの歴史上においても大変重要なモデルだと思っています。発売当初、大規模なプロモーションを行わなかったにもかかわらず、沢山売れて、ブランドのスタートダッシュを可能にしました。アウトドアリテイラーショーでは、2000年代に発売された商品として唯一殿堂入りした商品となりました。2018年はその発売から15年を迎えるアニバーサリーイヤーで、合計30バリエーションを用意しています。過去、現在、未来をコンセプトに、過去の名品の復刻版だったり、未来バージョンとしては、その環境配慮のレベルをさらに数段上げたエコなニューポートも開発していて魅力的なラインナップになっています。マンスリーリリースという形で、2018年1月から5月ぐらいにかけてリリースしていきます。

左 : NEWPORT ECO ¥14,000
右上 ・ 右下 : NEWPORT RETRO ¥13,000
※右下はサンプルのため、本製品とは仕様が異なります。

そして、15周年を記念した次世代のニューポートとして、オーナーのローリーが直々に開発したプロジェクトが“EVOFIT ONE”(エヴォフィット ワン)です。フィットの進化というその商品名そのままで、ニットシューズのフィッティングにおける問題点をキーンならではの方法で解決したモデルになります。ニットシューズとしては、非常にレベルが高い仕上がりでアメリカの自社工場で作っていることも大きいですね。エヴォフィットは「足と共に動き、呼吸する、もう一つの皮膚」というのがコンセプトで、履いていることを忘れる履き心地です。履いているけど、履いてないみたいな、不思議な履き心地を体感できる逸品に仕上がっていると思います。

EVOFIT ONE ¥15,000

あと、アウトドアのカテゴリーでは、トレッキングシューズで“TARGHEE”(ターギー)っていう2005年から続くヒーロープロダクトがあるんです。これの進化版で“TARGHEE EXP”(ターギー イーエックスピー)を去年限定発売してるんですが、今年から正式にローンチして一般に発売しています。アーバンシーンでもフジロックみたいな屋外のフィールドでも使えるという、非常に汎用性の高いトレッキングシューズになっています。

TARGHEE EXP WP ¥15,000

そして、我々のヒーロープロダクト“JASPER”(ジャスパー)が今年の秋冬で10周年を迎えます。ジャスパーのデザインを長年手掛けて頂いている“TOKYOHEMPCONNECTION*THC”(トーキョーヘンプコネクション)関村氏プロデュースのアニバーサリーコレクションが登場します。秋冬の企画なので発売は8月になります。今年は、ニューポートとジャスパーがWアニバーサリーイヤーで、ニューポートは3月2日-5月27日でユーザー参加型のキャンペーンがスタートしてます。

JASPER ¥11,800

–––2018年2月1日にキーン・ジャパン内に“TDC”(東京デザインセンター)を設立したそうですが、その活動内容を教えてください。
キーンのアメリカ本社と同等の機能を持った開発セクション“TDC”(東京デザインセンター)をキーン・ジャパンのオフィス内に開設しました。実は、今までも日本主導でのカラーリングであったり、コンセプトメイキングも行ってグローバル商品として世界市場で販売していたのですが、デザインや設計、工場と連動したデベロップメントはUS本社に依頼していたんです。TDCではこの開発を自らの手で行うことにより、自分たちが本当に作りたい物を自分たちで作ることを目的に設立しました。

TDCは、日本人ならではの視点で開発された商品によって、グローバルでのキーンビジネスに貢献したいと考えているんです。人々のニーズとウォンツを汲み取った「正しい商品」を作り出し、同時に開発のスピードアップや品質の向上を図っていきたいと思っています。それがキーンブランドの未来に寄与すると思っていますし、それがオーナーのローリーに期待されているポイントなのです。僕らの理想を形にするための人材は、現在もキーンシューズのインラインデザインをお願いしている社外デザイナーズチームの関村求道氏(TOKYOHEMPCONNECTION*THC)、鹿子木隆氏(RFW)、甲斐一彦氏(BAMBOO SHOOTS)、今井タカシ氏(TIMAI)に加え、社内でのデザイン・開発チームとして、メーカー、ショップ問わずシューズ業界内で活躍されている方々を招聘しています。あとは、フットウェア業界だけにとどまらず、異業種の方にも何名か声掛けをしていて、そこで生まれる化学反応を考えると今から興奮を隠せません。私も15年間やってきましたけど、開発は自分たちでやってこなかったので、本当に作りたいものは作りたくても作れない状況だったんです。だから、そのフラストレーション的なものをプロダクトとして具現化していきたい。将来的には、ニューポートやユニークみたいなスポーツシューズの歴史に名前を残すような革新的商品を、東京デザインセンターのメンバー皆で力を合わせて生み出したいと思っています。オーナーからは、人材とスピード、現場訪問というのが一番重要だと言われていて、この3つを駆使すれば不可能ではないと考えています。今、計画しているプロダクトは、早くて2019年秋冬、遅くとも2020年の春夏にはリリースをしたいと考えています。日本人の視点でキーンシューズの全カテゴリーのみならず、アパレルやバッグ、アクセサリーなど、物作りを追求してきた“作りたがり”メンバーが、その熱意を存分に発揮する商品群になると思っています。期待してください。

キーンの2018年春夏コレクションの展示会場にディスプレイされた
現在の社外デザイナーズチームが手掛けたユニーク。

関村求道氏 (TOKYOHEMPCONNECTION*THC)

 

鹿子木隆氏 (RFW)

 

甲斐一彦氏 (BAMBOO SHOOTS)

 

今井タカシ氏 (TIMAI)

 

–––5年後のTDCは、どうなっていると構想していますか?
日本人の感性というのが、業種を問わずカテゴリーを問わず非常に注目されている昨今なので、TDCとしてはチームメンバーを増やして、USやヨーロッパ、アジアの開発部隊にメンバーを派遣して、世界中でTDCプロダクトを開発しつつ、ブランドの商品開発ベースレベルがアップするような化学反応を起こしたいと考えています。それが、ブランドの商品開発力や品質を上げる最も早い道だと思っているからです。キーンは、現代のスポーツシューズブランドとしては非常に稀なんですが、シューズの自社工場をアメリカ、タイ、メキシコに持っているんです。今後、チャンスがあれば日本に工場を持ちたい。日本の工場だと、早いし融通も利きやすいと思うのでそれを有効活用して靴を作っていけたらいいなと。シューズ業界では、企画して製品化するまで1年半とか2年かかるのが当たり前なんですが、そういう常識もぶち壊したい。シューズ産業の枠組みにとらわれない、異業種とのコラボレーションから生まれた新素材、新機能、新たなコンストラクションにもチャレンジして行きたいと考えています。

“TDC”(東京デザインセンター)の設立メンバー。キーンの未来を担う精鋭達。スポーツシューズの歴史上、名前を残すような革新的なモデルがここから誕生することを楽しみにしている。

–––20周年を迎える時のキーンはどうなっているでしょうか?
キーンっていう枠組みにちょっと収まらないんですけど、常々考えているのは、アウトドアシューズの一般化ですね。我々はキーンのことをアウトドアシューズブランドとは考えておらず、スポーツシューズブランドだと思っています。アウトドアっていうのは、そのスポーツシューズのカテゴリーで、実は一番多種多様な環境に対応しなければいけないカテゴリーなんです。南極用の靴も作るし、水中用の靴も作れば、クライミング用の靴も作るみたいな。さらにアウトドアには必ず機能訴求が求められます。なぜなら、人の命を預かるからなんです。したがって人類の履物の性能としては、アウトドアシューズが最も優れているのは間違いない事実なんです。しかし、アウトドアシューズは機能訴求に走るあまり、70年代からプロダクトマーケティングをほとんど行ってきていないんです。プロダクトマーケティング概念の導入が遅れたことが今、ライフスタイルシューズとして認知されていない理由だと思います。なので、きっちりとしたプロダクトマーケティングができれば、世界中の人々が日常的に履くフットウェアとして一番になる可能性があると考えてます。それが、アウトドアの一般化という意味です。アウトドアシューズを一般化させることがキーンのミッションなのです。毎日、アウトドアシューズを着用したり、通勤でも履いてもらえるブランドになり、世の中の人々に貢献できる履物を提供していきたいです。20周年は5年後ですが、2045年のシンギュラリティというキーワードが話題になっているように、近い未来に我々の生活に劇的な変化が訪れると思います。その中でキーンは、素足では出来ないことの新たなソリューションを提供し、市場と生産のあり方を見直し、フットウェア最大の問題点であるフィッティングを再定義したいと考えています。キーンはプライベートカンパニーであり、とても自由な気風と環境があり、その未来は無限大だと思っているので。

–––SHOES MASTER読者にメッセージをお願いします。
靴は、人間が身に着ける物の中で唯一、健康に直結する物で最も過酷に使用される道具です。だから、一足作るのにも大変な手間と時間がかかります。そういった靴の本質的な部分を知った上で、作り手の思いやこだわりを感じながら、自分自身の価値観でシューズを選んでもらい、もっと色々なシューズを楽しんで欲しいと思います。話題のモデルやコラボレーションモデルじゃなくてもインライン商品(一般的に売られているモデル)でもすばらしい物がある一方、人気商品の中にはシューズとしての本質が備わっていない物もあります。誰も履いていない物の中にも本当にカッコいい物もあるので、自分なりの視点でそれを見つけ出して欲しいです。

あと、スニーカーが好きな人にお伝えしたいことがあります。本当にスニーカーを愛している人には、ぜひシューズ業界に入って自分の思いや夢を実現して欲しいです。今、この業界は、若手のエース不足であったり、人材が非常に不足しています。スニーカー愛がある人達が入ってくれるとシューズ業界全体の活性化に繋がるので。日本人の文化や物作りの姿勢は、世界的にも評価されて、今だからこそ必要とされてます。世界規模のビジネスに関わり、世界で活躍できるチャンスがあります。チャレンジをし続けて諦めなければ、自分が作りたい商品を生み出したり、自分の手でブランドの未来を作り出したりするのは夢ではない時代です。僕がスポーツシューズショップで働き始めた1990年代には想像もつかなかったけど、今はそういう時代です。ぜひこの業界に携わって、人々の生活に真に役立つシューズやブランドを作ってもらえればなと思ってます。

INFORMATION
KEEN JAPAN
03-6416-4808
global.keenfootwear.com

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